【2021年版】新聞出版業界で見られるトレンド7選! 定期購読サービスの売上アップ戦略

MPP Global Wednesday, 03 February 2021

2020年は多くの人にとって大変な一年でしたが、同時に数多くのイノベーションやデジタル化が進んだ年でもありました。それは新聞・出版業界でも同じです。本記事では、出版・メディア業界に詳しいアナリストが、2021年の新しいトレンドについて紹介します。

 

1. パンデミックによるデジタル化推進

「デジタル化」を目標に掲げる新聞・出版社も、パンデミックによりその目標達成への優先度が高まりました。デジタル化対応が追いついていない会社は、特に翻弄した年だったのではないでしょうか?2020年は、多くの新聞出版、メディア会社が迅速にデジタル化へのシフトを図りました。2021年の収益内訳について、50%の新聞・出版社が定期購読による収益が大半を占めるだろうと答え、35%が定期購読と広告による収益が同等になるだろうと回答しています。この目標を達成するためには、デジタルシフトは今後も欠かせない課題です。

 

米国ではデジタルコンテンツの読者数が紙新聞の読者数を上回っていますが、紙新聞が完全になくなるとは考えにくいのが現状です。その証拠に、デジタルほど購読者数の増加は見られないながらも、紙新聞の定期購読者を一定数確保している会社も多くあります。

 

最近では、紙新聞とデジタルコンテンツを別に考えるのではなく、一つの定期購読サービスとして統合させて、一括して運営を行う会社も増えています。しかし、紙新聞とデジタルコンテンツをセット販売できるだけのインフラ設備がなければ、費用と時間がかかる作業です。CRMシステムから定期購読の管理システム、データ分析ツールまで、すべての機能を1箇所で行えるインフラ設備が整っていることが、今後の成長の鍵となります。

 

2. サードパーティクッキーの廃止による代替技術の必要性

カンターグループの調査によると、64%のメディア企業がサードパーティクッキーの廃止による影響を憂いており、48%がサードパーティクッキーなしではターゲティング層にリーチができないと回答しています。しかし一方で、56%の消費者が、Webサイトトラッキングや広告のターゲティングに個人情報が使われることに対して反対の意見を示しています。

サードパーティクッキーの廃止による代替案に関しては、様々な意見が挙げられていますが、その中でも注目されているのが自社サイトが収集したファーストパーティデータを使った広告のターゲティングです。Googleではプライバシーサンドボックス(Privacy Sandbox)と呼ばれる新取り組みを推進しており、これを使うことでサードパーティクッキーを収集するのではなく、Googleのプラットフォーム上だけでの計測やターゲティングが可能になります。取集したファーストパーティデータは、AIによって分析が行われ、ユーザーの好みに合わせてWebページやコンテンツをカスタマイズすることが可能です。Digital News Reportの調査によると、56%の出版メディア社はユーザー獲得やコンテンツ管理にAIが今後欠かせなくなると回答しています。

 

現在有力である代替案「ファーストパーティデータの収集」を実際行うためには、アカウント登録を使った情報収集がもっとも効果的です。コンテンツを閲覧する前にアカウント登録を義務付けることで、ユーザーの閲覧行動をトラッキングしたり、有料会員登録を促すための特典をカスタマイズして提供したりすることもできます。2021年からは、このファーストパーティデータを使ったデータ分析とトラッキングが重要課題となります。

 

3. 5G到来による動画コンテンツへの需要増加

5Gの登場と普及により、これまで以上にデジタルコンテンツの消費が加速すると考えられます。最近では、動画がもっとも人気なコンテンツで、今後も動画コンテンツへの需要が伸び続けることが予想されます。

 

新聞・出版社がこの変化に適応するためには、文字コンテンツとは別に、4K対応のような高画質のコンテンツ、さらに高音質なオーディオコンテンツも必要になります。特にニュースコンテンツを配信する際には、文字情報だけでなく、動画コンテンツがあるだけで読者の興味関心を引き、購読者の獲得につながります。大手会社ではすでに単編から長編までの動画コンテンツを上手に活用している例が数多くあります。質の高い動画コンテンツは、コストパフォーマンスが高く、始めるためのハードルも低いため、小規模の新聞・出版社でも始めやすいメリットもあります。

 

業界に関係なく多くの新聞・出版業界では、読者と繋がりエンゲージメントを高める方法を探し求めています。それは会社だけでなく、読者同士も同じです。動画を使ったSNSやプラットフォームが増えていることを生かして、できるだけ多くのプラットフォームにコンテンツを配信するのではなく、会社が提供するコンテンツにあったプラットフォームを選んでコンテンツを配信することが今後重要になってきます。

 

動画コンテンツでは、そのプラットフォームで有名なインフルエンサーや有名人を採用し、読者にとって身近な人にストーリーを語ってもらうという方法を実践している会社もあります。SNSなどのプラットフォームを使うことで、コンテンツを見たユーザー同士の交流や会話を生み出すこともできます。ファン層をつくり、ファンからずっと支持されるサービスを展開するためには、このような手段は今後欠かせなくなってくるでしょう。

 

参考:Instagram

 

4. エンゲージメントから収益、ユーザー同士の交流を促進するためのポッドキャスト番組コンテンツ

2020年から2021年にかけて急成長を遂げているのは、動画コンテンツだけではありません。ポッドキャストも注目されています。英紙ガーディアンのポッドキャスト番組「トゥデイ・イン・フォーカス(Today in Focus)」は、2020年にブリテッシュポッドキャストアワードを受賞しています。米紙ニューヨーク・タイムズのポッドキャスト番組「ザ・デイリー(The Daily)」は、1日に400万人が再生しており、2020年のスポティファイでもっとも再生されたポッドキャストTOP3に輝いています。ポッドキャストは米国では55%の人が習慣的に聞いており、ヨーロッパでも28%と高まりを見せています。そのトレンドに乗るようにして、ポッドキャスト番組内での広告出資も伸び続けています。

 

ニュース系ポッドキャスト番組以外にも、イベント系ポッドキャスト番組も人気を集めています。イベント中止は2021年も続くことが予想されており、ファンたちがeスポーツや音楽などのイベント体験を楽しめるコンテンツへの需要が高まっています。イベント系ポッドキャスト番組では、eスポーツ試合の実況や見解、音楽イベントでは舞台裏に関するコンテンツなどが人気です。

 

さらにポッドキャスト番組は広告収入以外にも収益化する方法があります。例えば、定額制サブスクリプションやスポンサーシップの形をとることができます。また番組リスナー限定の特典を使った登録者獲得も効果的です。

 

参考:https://www.statista.com/chart/18051/podcast-penetration-rate-in-europe/ 

 

5. アカウント登録の簡素化 ーユーザーに優しいアカウント登録手順でユーザーデータを獲得

前述した通り、サードパーティクッキーの廃止により、読者のユーザーデータを収集するための代替案が必要になっています。コンテンツ閲覧前にアカウント登録を要する仕組みは、データ収集に効果的ではありますが、ただ数記事だけ読みたいユーザーにとっては面倒に感じやすく離脱の原因につながります。この離脱を防ぐため、大手企業ではスムーズな登録手順を導入しています。

 

その例が、米紙のニューヨークタイムズ、カナダ紙のトロント・スター、英紙のガーディアンです。スムーズなアカウント登録を実現するため、メールアドレス登録などの数項目の入力で、コンテンツを閲覧できるようにしています。UXを重要視する会社では、アカウント登録の手順をシンプルにすることは重要です。さらにフォームやプロフィールページを使ったり、閲覧行動やコンテンツをトラッキングしたり、他ユーザーとの交流を分析したりすることで、より精度の高いユーザーデータを収集することも可能です。

トロント・スターでは、アカウント登録に必要な入力欄を最小限におさえることで、スムーズなコンテンツ閲覧を実現しています。(参考:https://www.thestar.ca

 

6. 年間プランと幅広い支払い手段の重要性

定期購読サービスを提供する会社の多くは、月額プランよりも安定した収益に貢献する、年間プランの登録率に注目しています。年間プランはユーザーにとってもコストパフォーマンスがよく、毎月の支払いが何かしらの理由で通らず不本意に解約になるケースを防ぐことができます。

 

支払い手段としては、PayPal、Google Pay、Apply Pay、そして国ごとに使われている主流決済手段などが人気で、2023年には従来のクレジットカードやデビットカード決済よりも電子決済サービスが好まれることが予想されます。オンラインでの支払いがスムーズであればあるほど、登録率が向上し、支払い情報の入力に対するハードルも低くなります。

 

7. パーソナライゼーションでエンゲージメントを高める

フェイスブックやインスタグラムだけでなく、TikTokなどのSNSの成功の陰には、ユーザーが閲覧するコンテンツを個人に合わせてカスタマイズする「パーソナライゼーション」があります。SNS以外のサービスでもパーソナライゼーションを使用した例が増えています。同じようにコンテンツを提供する新聞・出版社でも、従来のやり方ではなく、個人の興味関心を把握した上でコンテンツをカスタマイズしていくことが求められます。

 

パーソナライゼーションはコンテンツだけでなく、登録方法や支払いフローにも適用して、コンバージョン率をあげることができます。ファーストパーティデータを使って個人の興味関心を分析しながら、Zephyrなどのツールで個人ごとにカスタマイズしたランディングページを見せることも効果的です。通常価格では登録をしないユーザーには、割引価格を見せることでコンバージョン率をあげ、すでに登録をしているユーザーには、アップセルを目的としたコンテンツを見せて、ユーザー単価を上げることもできます。

 

まとめ

2020年は、多くの会社にとって試行錯誤の連続だったかもしれません。しかし、そこでの学びは、2021年に躍進するためのヒントになります。

 

サードパーティクッキーの廃止など、まだまだ課題はありますが、この課題をバネに成長することもできます。ニューノーマルの時代を生き残るため、会社が試行錯誤しながら得たスキルや知識は、今後の新しいコンテンツ提供の方法を考えるときに大いに役立ちます。アプリ内課金や、PayPal、Apple Pay、Google Payなど、幅広い支払い手段を提供することは、オンライン支払いでは今後欠かせないほど重要になってくるでしょう。

 

つまり、幅広いジャンルの関連コンテンツを、複数のプラットフォームで見たり読んだりできること、使い勝手の良いUXデザイン設計であること、そしてその地域にあった支払い決済を提供すること、これらすべてが新規購読者の獲得には欠かせないのです。

 

完全にデジタルに移行することはなくても、2020年のパンデミックをきっかけにデジタル化が進んだことは間違いありません。2021年は、そんな社会の変化に柔軟に対応できる会社にとって、成長の年になるでしょう。

 

この記事のポイント

  • 新聞出版業界でデジタル化は今後も進む。紙新聞とデジタルコンテンツを一緒にした、セットプランへの需要も高まる。
  • サードパーティクッキーに頼らない、ユーザーデータの収集方法の開拓が必要。
  • 低迷していた広告投資が2021年になって復活する。
  • 5Gの到来により、動画コンテンツの消費が今まで以上に増える。
  • ポッドキャスト番組への需要と関心が今後も伸び続ける。新しい収益源としても注目されている。
  • シンプルでスムーズなアカウント登録や支払いのプロセスが今後の標準になる。
  • 電子決済サービスやアプリ内課金は、クレジットカードよりも主流の支払い方法になる。
  • パーソナライゼーションは、アカウント登録から有料会員登録、コンテンツ管理、特典付与、解約防止まで、様々なタッチポイントや用途に使える。
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