動画配信サービス業界と新聞出版業界が互いに学びあえるユーザー獲得戦略とは?

MPP Global Posted by MPP Global on Wednesday, 31 March 2021

コンテンツを商材とする動画配信サービス業界と新聞出版業界では、ユーザー獲得戦略の観点から互いに学びあえることが増えています。それぞれの業界で使われている戦略を応用することで、思わぬ形でユーザー獲得率アップに繋げることができる可能性があるのです。

どちらの業界もビジネスの目的は、直接ユーザーに「コンテンツを販売」すること。動画コンテンツとオンラインメディアが娯楽の大半を占めるようになった現代では、10年前に比べて動画配信サービス業界と新聞出版業界における共通点も増えています。

動画配信サービスの市場は、2021年に14%の増加を見せることが予想されています。新聞などの電子版定期購読サービスの登録者数も、2020年だけで前年比420%の伸びを見せています。現在、このトレンドに乗って両業界が様々な戦略を展開しながら成長を続けています。それぞれの業界で成功している戦略は、互いに学びあえるものが多く、互いの業界から学ぶ姿勢が今問われているのです。

ポイント

  • 期間限定でサービスを利用したいユーザーには「1日フリーパス」を使う
  • デジタルコンテンツと実物商品のサブスクリプション(定額制)サービスを融合させる
  • 登録のタイミングに関係なく支払いができる仕組み作り
  • 他社の関連サービスと連携してセットプランやギフトを提供する
  • 一時的にサービスの利用を停止できる「サブスクリプション一時停止機能」で解約を防ぐ
  • 見放題・読み放題プランではなく、特定のコンテンツだけにアクセスできる「セットプラン」で登録のハードルを下げる
  • 簡単なアカウント登録プロセスで登録率をアップさせる

1日・期間限定フリーパス

スポーツを専門とする動画配信サービスでは、期間限定のスポーツ試合だけが観られる料金プランがよく見られます。特にメジャーリーグなど大きな試合は特定のシーズンだけ開催されることが多いため、ペイパービュー(都度課金型)の料金モデルが主流です。英国の定額制動画配信サービス「Now TV 」でも、2012年からフリーパスを使ったサービスの提供を行っています。

同じ考えに基づいた戦略が、新聞出版業界でも使われています。1日フリーパスのようなものはあまり見られませんが、「学生フリーパス」「VIPセットプラン」「企業フリーパス」「期間限定フリーパス」などの形で提供されています。新聞出版業界でも、デジタルコンテンツの動画が占める割合が大きくなっていることもあり、ますます動画配信サービス業界から学べることは増えていくと考えられます。

iFollow

1日フリーパスを提供することで、ユーザーは特定のコンテンツを試し視聴・読みができ、企業側はユーザーの登録データを獲得できるので、双方にとってメリットがあります。企業はフリーパスを通して得たデータをターゲット・マーケティングに活かすこともできます。各ユーザーごとに興味関心に関するデータを獲得することで、ユーザーベースでのターゲティングが行えるという強みに繋がるのです。

無料で試せるフリーミアムモデル

新聞出版業界でよく見られる戦略に、有料記事を特定回数まで無料で閲覧できるものがあります。アカウント登録をすることなく、ある一定の回数まで記事やコンテンツを閲覧できるもので、“フリーミアムモデル”とも呼ばれます。一方で、動画配信サービスでは、特定の期間まで無料で視聴できる無料トライアル期間を設けていますが、登録などが必要でフリーミアムモデルのような気軽さには欠けます。

動画配信サービスでフリーミアムモデルを採用する方法として、新規アカウント作成を条件に、特定の動画コンテンツを無料で提供する方法があるでしょう。ゲーム業界でも同じような戦略が使われており、特定のゲームタイトルを無料でプレイできる「週末限定フリープラン」などがそれに該当します。アカウント登録を条件に、プレイステーションやXbox Live、Steamのゲームが週末限定で遊び放題になります。

 

Free Weekend example

無料トライアル期間を設けていない動画配信サービスであっても、この方法を使うことによって、多くの人にサービスを試してもらえます。米国では、トライアルを体験した58%が有料会員になる調査結果もあり、動画配信サービスにおける「試し視聴」の重要性がわかります。過去に解約をしてしまったユーザーに対しても、この方法で再度試してもらうこともできます。気軽に試せることで、サービスのファンもつきやすくなるメリットもあります。

支払いと登録のタイミング

デジタルコンテンツと実物商品をサブスクリプション(定額制)サービスとして提供する場合、支払いのタイミングがそれぞれで異なることがあります。デジタルコンテンツの場合、登録した日から1ヶ月分の料金を支払えばすぐにサービスを利用できます。一方で、新聞紙の定期購読では、新聞紙が発行されるタイミングまで商品を受け取ることができません。登録のタイミングに関係なく支払いができればユーザーにとって利便性は高まります。

例えば、商品の発行日が登録日に近い場合、ユーザーにとってお得感が増すため解約を防ぐことができます。また、新作のコンテンツが見たくてアカウント登録をした場合でも、コンテンツがリリースされる前に支払いを済ませてリリースを待つことができます。

サブスクリプションの一時停止機能

新聞紙の定期購読の場合、休暇などを理由に新聞紙の配達を一時停止したいこともあるでしょう。このような場合、ユーザーは解約を求めていないので、企業側でサブスクリプション(定期購読)の一時停止機能を用意することが必要です。一時停止をすることで、一定期間新聞紙の配達と支払いを停止することができます。

一方で、動画配信サービスでは一時停止機能はあまり見られず、サービスの利用を一時停止したい場合は解約をするしかありません。解約をするとそのまま戻ってこない可能性が高まります。スポーツ専門の動画配信サービスである「BT Sport」や「Sky Sports」では、スポーツ試合の中止が相次いだ2020年に、サービスの一時停止機能を導入し始めました。一時停止をしたユーザーは、支払いを一時停止する、または国民保険サービス(NHS)に寄付することを選択できます。これらのサービスに続くようにして、様々なスポーツ動画配信サービスでサービスの一時停止機能が積極的に導入されました。

スポーツ動画配信サービスにとって、一時停止機能はオフシーズンの解約を防止することに役立っています。シーズンの期間だけ料金を支払うようになるので、ユーザーにとっても安心です。一般的な動画配信サービスでも、休暇などを理由に一定期間サービスの利用を停止したいユーザーのために、一時停止機能を導入することはとても効果的だと考えられます。2020年の米国調査によると、動画配信サービスの登録者の50%が一時停止機能があれば利用したいと回答しています。電子版ニュースサイトでも、55%のユーザーが同様に一時停止機能があれば利用したいと答えています。

 

B2C Subscription Data

セットプランの提供

セットプランとは、異なる商品やサービスを1つにして販売する方法です。Zephのようなツールを使ってユーザーごとに閲覧する頻度や使用デバイスを細かく分析できます。このデータを使用して、よく利用するサービス同士をセットプランとして提供できます。ユーザー1人ひとりに合わせてセットプランをカスタマイズすることで、新規ユーザーの獲得に繋げることもできるでしょう。

新聞出版業界であれば、記事をトピックごとに集めてセットプランにしたり、複数の雑誌をまとめて読めるセットプラン、他社サービスとのセットプランという提供の仕方ができます。動画配信サービスであれば、キッズ番組や映画など特定のジャンルだけにアクセスできるセットプランを提供できます。アクション映画や、自然ドキュメンタリーなど、特定のコンテンツをセットにした「ライトプラン」を安価に提供する方法もあります。

アカウント登録プロセスの簡易化

Netflix(ネットフリックス)では、アカウント登録プロセスが簡易で、メールアドレスとパスワードを入力するだけですぐに利用を開始できます。「Amazonプライム・ビデオ」や「 Now TV 」などの動画配信サービスでも同様に、簡単なアカウント登録ですぐに視聴ができます。多くのサービスにて、アカウント登録時の記入欄を減らしています。メールアドレスとパスワードのみ、またはSNSアカウントを使ったサインインが主流で、数分もかかるようなアカウント登録プロセスはあまり見られません。

多くのユーザーが簡単なアカウント登録プロセスに慣れていることもあり、新聞出版社でも積極的にアカウント登録プロセスを簡易化することが求められています。ペイウォール式を採用している場合は、無料閲覧が一定回数を超えた場合にワンクリックでサインアップできるようにします。シングルサインオン(SSO)を使って、メールアドレスとパスワードだけでアカウント登録ができるように設定します。1つのページでアカウントと決済方法の登録ができることで、入力の手間を減らして登録率アップに繋げることもできるでしょう。欧州経済領域では、決済時に確実な本人認証(SCA)方式に基づく2段階認証が義務づけられており、よりスムーズな登録プロセスが世界中で求められています。登録プロセスを短くするだけで登録率が20%上がるという調査結果もあり、新聞出版業界においても効果的な戦略だと言えます。

Netflix
Netflix request only an email address to get started (Source: https://www.netflix.com/gb/)

まとめ

娯楽としてのコンテンツが多様化し、メディアサービスに対するユーザーの期待が変化する中、動画配信サービス業界と新聞出版業界では、新規登録率や顧客生涯価値アップを目指すために互いから学びあえることはたくさんあります。30日無料トライアルが主流である動画配信サービスでは、新聞出版業界で主流の「フリーミアムモデル」を取り入れることができるでしょう。

さらに、スポーツを専門とする動画配信サービスでは、期間限定でサービスを利用できる「フリーパス」制度を導入しています。短期間ではあるものの、ユーザー獲得につながり、登録時に得たユーザーデータを用いてさらにパーソナライズしたサービスの提供に役立てることができます。

両業界で共通して言えることは、「登録しないと見放題・読み放題できない」というアプローチよりも、必要なコンテンツだけを「試せる」アプローチが効果的であるということです。データ分析を行って、ユーザー1人ひとりにあったコンテンツをセットにして提供することが、登録率アップに繋がります。また、デジタルコンテンツでも実物商品でも、登録のタイミングに関係なく両方を楽しめるようにすることも、今後重要になってきます。さらに、動画コンテンツを好む人が多い現代では、どんなブランドにおいても動画コンテンツは欠かせない存在です。動画配信サービスと新聞出版メディアの境界線が曖昧になりつつある今、互いの業界からの学びをすぐに実行できる企業ほど早く成長できると言えるでしょう。

もっと詳しく知りたい方へ

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